大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(ワ)10658号 判決

原告

株式会社建健小久保木工所

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

石井芳光

貝塚慶一

被告

株式会社東日本銀行

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

田口尚眞

小池郁男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  別紙銀行借入金目録≪省略≫記載の銀行借入金について、原告の被告に対する債務が存在しないことを確認する。

二  被告は、原告に対し、金四四万六九八一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成一〇年六月三〇日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

四  右第二項につき仮執行宣言。

第二事案の概要

一  本件は、訴外日東興業株式会社(以下「訴外会社」という。)が経営する未開場のゴルフ場「双園ゴルフクラブ」(以下「本件ゴルフ場」という。)の会員権(以下「本件ゴルフ会員権」という。)を平成九年三月、被告のローン(借入元本金四二〇万円。以下「本件ローン」という。)を利用して代金四三〇万円で買い受けた(≪証拠省略≫。弁論の全趣旨)原告が、

①(主位的主張)

訴外会社と被告との間には一体性のある信用供与取引関係があるから、右に係る本件ゴルフ会員権の売買(以下「本件売買」という。)につき訴外会社に債務不履行があるときには、本件ローンにつき、割賦販売法三〇条の四の適用又は類推適用があり、原告は、被告に対し、右訴外会社の債務不履行に基づく契約解除をもって被告に対抗することができ、かつ、原告は訴外会社の債務不履行を理由として平成一〇年三月一八日に本件売買を解除した(≪証拠省略≫)ので、右一体性からして、本件ローンも消滅することになる、又は、

②(予備的主張)

被告は、その業務の公共性及び訴外会社との間の提携ローン関係からして、本件の銀行与信取引に際して、本件売買及び本件ローンによって原告に損害が発生することを未然に防止ないし軽減すべき信義則上の義務を負担していたところ、被告は、訴外会社が経営不振で早晩倒産し、本件ゴルフ場を開場することができないことを認識又は容易に予測することができたものであって、右信義則上の義務に反していたものであるから、原告に対し、本件売買代金相当の四三〇万円の損害賠償責任を負い、原告はこの損害賠償請求権(以下「本件反対債権」という。)を自働債権として対当額で相殺する旨の意思表示を本訴の弁論においてした旨を主張して、

被告に対し、本件ローンに係る債務の不存在確認と、既払元利金の返還を求めている事案である。

二  被告は、訴外会社が本件ゴルフ会員権の販売をするに際して被告がその購入ローンにつき提携したことは認めるが、右販売につき訴外会社の多数ある提携先の金融機関の一つとして提携したにすぎず、他に訴外会社と被告との間には格別の関係がなく、本件売買をしたことに伴う危険等につき原告がその責任を負うべきことは自己責任の原則からして当然であって、原告の主張は失当である、なお、原告と被告との間には本件ローンよりも前の平成六年九月一四日に銀行取引契約が締結されており、原告の業績、風評、原告代表者の人物等についてある程度把握していたので、本件ローンの場合全くの新規申込みの場合ほど原告につき厳格な審査はしていないが、適宜必要な確認作業はしており、提携ローンであったため無審査で融資を決定したというものではない、加えて、ゴルフ会員権は割賦販売法三〇条の四の適用ないし類推適用のある指定商品に該当しないし、仮にこれに該当するとしても、本件ローンにつき被告が求める債務の履行を拒絶できるにとどまり、本件ローンの債務不存在確認請求や、既に弁済した金員の返還を求め得ることにはならないものである旨主張し、原告の主張をほぼ全面的に争っているものである。

第三当裁判所の判断

一  証拠(≪証拠省略≫)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件売買につき本件ゴルフ会員権の売主である訴外会社は、本件売買当時既に相当経営不振の状況にあったこと、平成九年九月当時約三四五五億円の負債を抱え、同年一二月当庁に和議開始の申立てをしたこと、現時点において本件ゴルフ場が開場する見込みは乏しいこと、原告が訴外会社の債務不履行を理由として本件売買を解除したこと、本件ゴルフ会員権の販売につき被告が訴外会社と提携してローンを組むことが合意されており、本件ローンもそのような提携ローンの一環としてされたものであること、本件ローンにつき訴外会社が被告との間で連帯保証契約を締結していること、平成七年度以降の訴外会社の財務諸表を子細に検討すれば訴外会社の経営がその当時から必ずしも順調でないことを認識することが可能であったことが認められる。

二  しかし、本件の全証拠によっても、本件売買ないし訴外会社の本件ゴルフ会員権の販売につき、訴外会社と被告との間に一体性のある信用供与取引関係があったこと、ないし、被告が訴外会社と一体性を有し、被告において訴外会社の顧客ないし取引相手(例えば原告)に対する義務として、訴外会社の経営、資産状態を監視すべき義務を負っていたというべきこと、被告が訴外会社に対して右に係る資料(例えば訴外会社の財務諸表)の提出ないし開示を求める権利を有しており、訴外会社の経営、資産状態等につき容易に知り得る立場にあったこと、ひいては、被告は、本件売買に係る本件ゴルフ場の開場等につき、訴外会社と同様の責任を負うべきこと、又は本件売買に係る訴外会社の原告に対する債務(ゴルフ場施設を利用させる債務や、預託金返還債務など)の履行が十分に可能かどうかなどについて容易に知り得る立場にあったこと、被告において訴外会社の右履行につき問題のあることを知りながら、原告に対する信義則上の義務を敢えて怠っていたことなどの事情については、右のいずれについてもいまだこれを認定するに足りる証拠がないものである。

右の点に関して、原告は、例えば、本件ゴルフ会員権の証書が被告に対して担保として差し入れられていたとか、本件ゴルフ場の用地につき被告が根抵当権の設定を受けていたなどという事情のあったことをも主張しているが、これらの事情を認めさせるに足りる的確な証拠もない。

三  かえって、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件ゴルフ会員権の販売につき被告は訴外会社の多数ある提携先金融機関の一つであるにとどまるものであったこと(≪証拠省略≫によれば、二五もの金融機関が提携していたようである。ただし、右書証は本件売買の約一年前の資料である。)、被告が原告に対し本件ゴルフ会員権の買受けにつき別格の勧誘をしたというわけではなく、原告において自ら右買受けを決定した上で、そのための資金を得るために本件ローンの申込みをしたというものであること(≪証拠省略≫)がうかがわれるのであって、右の事情、前掲各証拠及び弁論の全趣旨からすれば、本件売買における訴外会社の債務不履行という危険性についての判断、対処等に関しては専ら原告の責任においてすべきものであったというべきであり、被告が訴外会社と提携ローンを組んでいた公共責任を負うべき金融機関であるというのみでは、いまだ被告が原告に対し原告主張に係るような義務や責任を負っていたとは認められないといわざるを得ないものである。なお、本件ローンについて、被告が原告につきどの程度の審査をしたかどうか、原告主張のとおり実質審査がなかったかどうかということは、前記のような本件の事案との関係上、本件の結論を左右しないところというべきである。

四  以上のとおりであって、割賦販売法三〇条の四に係る原告の主位的主張は、ゴルフ会員権が同法所定の指定商品でないことをも併せ考えるとき、いまだ採用することができず、また、前記証拠状況からして、被告に原告主張に係る信義則上の義務に反する行為があり、それに基づく損害賠償責任、すなわち、原告の被告に対する本件反対債権が発生したともいまだ到底認められないから、原告の予備的主張である相殺も理由がないに帰する。したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも認容することができない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤剛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例